弔辞(外交官・元公使 青木 新 氏)

謹んで元特命全権公使 特派大使 山崎次郎君の霊に告ぐ

君 宿痾癒えず最も手厚き療養看護もその効無く 終に他界せらるる落葉梢に帰らず金風白露滋し痛惜哀悼何ぞ堪えんや

回顧すれば君が志を立て身を外交界に投じてより三十有余年の間 職を外務省に奉じわが国の外交に為すところ甚大なり 

初め中国及び外務本省に勤務し次いで出て スペイン フランス アルゼンチン諸国に活躍すること十余年 
大正十一年入りて外務書記官となり通商欧米の諸局及び大臣官房課長として敏腕を揮い又条約改正の事務に鞅掌して夙に功あり 
大正十四年大使館参事官となりソヴィエト聯邦及びブラジル国に勤務し
昭和三年累進して特命全権公使に任ぜられアルゼンチン国に駐箚し同時にパラグァイ及びウルグァイ国駐箚公使を兼ね大いに彼我の国交を敦厚ならしむると共に国民的親善を増進し更に南米に於ける我が通商貿易と移植民の発展に資すること八年 その間任国の国典に特派大使として参列すること二回 我国とパラグァイとの通商条約は実に君の努力に負う所最も大なり
されば君が多年の功労により従三位勲二等に栄叙せられたるは 蓋し君の功績に報い以ってその経歴に光輝を添ゆるものと言うべし

君は昭和十一年退官後といえども常に国事を忘れず 頻に同志と時事を論じて当局に献策し 尚奉公の念盛なりしも 如何にせん病魔に妨げられて果たさず 時々思を白雲流水の間に馳せ 或は
画筆を遠山遅泉の辺に揮ひ 或は詩情に寄せて自然と人生を楽しみ 胸中自ら光風斎月を蔵せり

君人となり誠実廉直 又 達識果断 所信に忠なる共に極めて友情に厚く吾等の敬愛措かざりし所にして その病に臥するや偏にその軽癒を祈念したるに惜しい哉終に起たず 吾等私情に於いて哀悼措かざるのみならず 今や君が傾注したる我が対南米策は着々成果を挙げつつあるの秋君を失って邦家の為実に痛惜に堪えず
さり乍ら君の人格の光はその業績と共に永く後世子孫に追慕せられ 君が遺族は前途洋々 能く君が志を発揚し 君死すとも猶生けるが如きものあらん 君安らかに瞑すべきなり

聊か蕪辞を聯ねて君が霊を弔う願はくば来たり饗けよ

昭和三十三年十月三十一日                 青木 新